~ 審判コラム ~
2003年秋、審判の資格審査会を受講、翌春から本格的に審判活動を開始。
経験を積むごとに審判員の醍醐味を感じ、
2016年には日本で新しくスタートした審判員ライセンス制度の国際ライセンス試験を受講し合格することができました。
このライセンスを取得したことで自分の審判活動は一変しました。
従来は経験することができなかった都市対抗(東京ドーム)、日本選手権(京セラドーム)への派遣。
東北地区を中心とした地区予選への派遣など年間を通し県外へ数多く派遣させていただけるようになりました。
そして何と言っても一番は「国際大会への派遣」です。
これまで4度国際大会を経験させていただきました。
国際大会派遣にあたり、必要とされることが2点あります。
一つは「2週間程度の休暇を取得できること」、もう一つは「英語、スペイン語の日常会話ができること」。
後者はともかく前者はmustです。
これが可能な環境にあった自分は非常に恵まれていると思います。
会社はもちろんのこと、周りの方々にはいつも感謝の気持ちを忘れないように心がけております。
最初の国際派遣は2016年12月BFA U12アジア野球選手権大会(中国)でした。
もちろんこれまでは国際大会の経験はなくしかも初の海外、そして中国語の知識は皆無。
とにかく「今持てるものを出し切ればなんとかなる」と思い挑んだのを今でもはっきり覚えています。
終わってみれば、達成感よりも、「もっとやれたのに」という後悔だけが強く残りました。
その後は2018年U18アジア野球選手権大会(宮崎市)、
2019年東南アジア競技大会(フィリピン)を経験させていただき、国際大会で必要な「立ち振る舞い」
「コミュニケーション」「ゲームメイク」は自分なりに形としてイメージできるようになりました。
「次に今度国際派遣が来たならば集大成としてその大会にすべてを出し切ろう!」
と思い普段から意識をしての審判活動に従事しておりました。
そして50歳を迎えた2023年10月、
おそらく最後であろうチャンスをいただき「第30回BFAアジア選手権(台湾)」に派遣していただくことになりました。
日本からは社会人トップクラスの選手が出場し、アジアチャンピオンを決める同年最後のBIG Tournamentです。
三強といわれる台湾チームはオールプロ選手、韓国チームは数名の大学生を含むプロ集団。
そして何と言っても興奮を抑えきれなかったのが、
大会直前に完成した「台北ドーム」のこけら落としとなる大会であったことです。
台北ドームは同年に完成しましたが、完成に至るまでは長い時間を要したようです。
また本大会はイチ野球ファンとして非常に楽しみであり、どのチームが優勝?
台北ドーム開幕戦・開会セレモニーはどんな雰囲気?各国のプロチームって?
などいろいろなことを想像し、出場国の文化、野球の普及度合いはどのようなものかを事前に調査
(特にアジア大会初出場となるパレスチナには特に興味がありました)し、
本大会が必ずや自分にとって集大成の場になるよう強くイメージして挑みました。
大会派遣期間は12月2日から10日間。
最初の割り当ては開会式直後に行われ開幕戦、台湾VS韓国戦の一塁審でした。
国際審判になったら「経験してみたい!」と夢に思うことが一つありました。
それは「外国の地で両チームの国歌を胸に手を当てて聞くこと」です。
これまでも何度か経験させていただきましたが、台北ドーム開幕戦、
台湾人で埋め尽くされたスタジアム、台湾VS韓国の負けられない本気の勝負。
一塁審として自分の名前が場内にアナウンスされ整列、
その後に台湾国歌が流れた瞬間は胸に込み上げてくるものがありました。
試合内容は記念試合にふさわしい引き締まった投手戦の末、台湾チームが歴史に残る台北ドーム初戦を勝利、
最高潮に盛り上がったドームのダイヤモンド内に自分が立てていることに大きな感動と強烈な喜びを感じました。
|
翌日は移動日。
開幕戦の余韻を引きずりつつ台北からバスで約2時間、
台中にある「インターコンチネンタルスタジアム」へ移動しました。
ここでは3日間予選Aグループの試合が行われ、注目していたパレスチナ戦には球審を担当させていただきました。
国際試合で球審をする際、国内の試合では行われない大きな役割があります。
それはホームベース前で行われる「メンバー表の交換」です。
両チームから提出される5枚複写のメンバー表を確認し関係者へスピーディー的確に配布、
そののち両チーム監督に「メンバー表に変更はないか?」「確認したいことはないか?」
「こちらからの諸注意」などを短時間で話します。
これらは全て英語で行われますので最低限での英語力が求められます。
これに関してはその場でおどおどしないよう、普段から練習しておくことが大切になります。
(この瞬間が最も英語を話せなきゃ、と感じた瞬間でした)
アジア大会初出場のパレスチナでしたが、
粗削りな部分はあったもののアメリカをはじめ国外でプレーしている選手が多く身体能力の高さも感じました。
結果は台湾に19対0のコールドゲームでしたがパレスチナチームには今後の成長をおおいに期待したいと思います。
大会後半からは台北に戻りスーパーラウンドを担当。
その中で最も印象深かった試合はフィリピン対台湾戦の球審を担当した試合でした。
BFAアジア大会第1回優勝国であるフィリピンには日本人指導者もおり
2019年シーゲームズで見た時よりも格段に上手になったと感じました。
この日も大勢の観客が入った台北ドーム。
スーパーラウンドになり、より負けられない台湾チームは実力的に上ではあるもののフィリピンチームが奮闘。
後半まで追加点を奪えず2対1で辛勝。
フィリピンチームの大善戦でありました。
この試合の審判クルーは球審の自分と日本から一緒に派遣の清水さんが三塁、一塁と二塁は韓国の審判員。
試合もさることながらド緊張の台湾ドームでの球審を本大会最高レベルのクルーでやれたことも感激した一つでありました。
9回表フィリピン最終打者が三振でゲームセットになった瞬間は、
すべてやり切ったという達成感で体の中の力がすべて抜けてしまいました。
アジア大会へ派遣審判としてもう一つ気になるところが「決勝戦の担当があるのか?」という部分です。
今大会は日本が決勝に進みましたので自分の役割は3位決定戦一塁審担当となりました。
決勝に日本が勝ちあがると自分は決勝に立てない。
決勝戦の審判割り当てがあれば日本は敗退している…少し複雑な心境になります。
注目の決勝戦は全勝の日本と1敗の台湾が激突。
絶対負けられない開催国台湾の攻撃は最終回1点のビハインドで、2死走者なし。
日本ピッチャーはトヨタ自動車嘉陽宗一郎投手。
先頭打者をヒットで出すものの次打者を内野ゴロ併殺に。
最後は2ストライクから粘る打者にストレート勝負を続け、見逃し三振。
見事な全勝優勝で有終の美を飾りました。
またこの瞬間を関係者席で見ることができたことは生涯忘れることのない経験となりました。
また今回の派遣で楽しみにしていたことがもう一つ。
それは旧友との再会です。
今回は何人もの旧友と再会を果たすことができましたが、一番の感動は2016年中国で滞在期間中、
常に行動を共にした(ホテルも同部屋)江金龍さんとの再会でした。
江さんとはうまく会話で再会を語り合うことはできませんでしたが、
秋田から持参したTシャツをプレゼントすると微笑んで喜んでくれました。
海外の審友と再会することも国際審判の醍醐味だと思います。
かくして今回のアジア選手権は幕を閉じ、大きなトラブルもなく終えることができました。
まだまだやれた感は残りましたが、
これまでの経験を存分に発揮することができたと今までにはなかった達成感を味わうことができました。
現在、全国的にアマチュア野球の審判員は不足している状況です。
秋田県も例外ではありません。
しかしながら我が秋田支部では若手審判員、
40代デビューのお父さん審判員を中心に徐々にではありますが増えており週末は各種大会で見事な活躍をしております。
自分はこれまでの経験を踏まえ、審判員の醍醐味を伝えていく役目があると思っております。
審判活動を中心に台湾で培った「野球の力」を広め大いに秋田の野球を盛り上げてまいります。
|