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独占手記『王座奪還への道のり』
能代松陵クラブ
監督 猿田由紀夫

秋大附属中・秋田高校・武蔵大学
■2009年 6年ぶり5回目の優勝。
■2020年 11年ぶり6回目の優勝。

2006年に能代松陵クラブの選手兼監督に就任し、今年で15年目のシーズンを迎えました。就任4年目で全日本クラブ選手権秋田県予選を制し、二度目の優勝まで11年かかりました。 振り返ると監督として初優勝した年に、小学6年生でその瞬間をこまちスタジアムで見ていた長男は、武蔵大学の3年生になり、保育所に通っていた次男は、秋田高校の1年生でありながら、同じ能代松陵クラブの選手として在籍し、表彰式後に私を胴上げしてくれました。月日の流れは本当に早いものです。

 

監督就任
2000年初頭、能代松陵クラブは黄金期でした。’00年、’02年にクラブ選手権全国大会へ出場、’03年も東北大会まで駒を進めました。私もちょうど30歳前後であり、選手として一番いい時期を迎えていました。前任の畠山親浩氏から監督就任を打診されたのが’05年のシーズン後、翌年1月に34歳となる年でした。全国大会を経験した先輩方が続々引退し、若手選手も仕事の都合等で入れ替わりがあり、当初2年間は思うような結果が残せずに苦労しました。そんな中、’08年10月に初めて参加した「北上市長杯争奪岩手県内陸クラブ野球大会」で準優勝し、チームとしての方向性が少し見えてきました。翌年、新入部員を迎えたシーズンはオープン戦、春季大会を通して企業チーム以外には全勝でクラブ選手権を迎えます。 結局この年は予選3試合で得点22、失点5で優勝、東北大会へ駒を進めます。東北大会では、1回戦いわき菊田クラブ(福島県)戦をコールド勝ち、2回戦は水沢駒形野球倶楽部(岩手県)に敗れ敗者復活戦に回り、敗者復活トーナメント初戦で金木ブリザード(青森県)に勝利、代表決定戦でブルースヨシフォレスト(青森県)に敗れ、悲願の全国大会出場はあと一歩のところで逃しました。’10年、連覇を狙ったクラブ選手権秋田県予選は初戦で敗退、目標をクラブカップに切り替えて秋田県予選で優勝したものの、東北大会2回戦でオール江刺(岩手県)に敗退、ここから優勝から縁遠くなっていきます。 ‘12年、クラブカップ秋田県予選で準優勝、同東北大会で準優勝し、久々に本大会まで駒を進めたものの、1回戦で函館太平洋倶楽部(北海道)に敗れ、全国1勝はお預けとなります。 昨年、クラブカップ秋田県予選で9年振りに優勝、東北大会で準優勝し、’12年以来の本大会へ駒を進めたものの、1回戦でウイン北広島(北海道)に敗れ、またしても全国1勝はできませんでした。

王座奪還へ
今年、新型コロナウイルスの影響で、4月に予定されていたクラブ選手権秋田県予選は中止、休校措置に伴い練習場所を失った4~5月、ようやく再開して万全の態勢で臨めるはずだったクラブカップ秋田県予選の直前での中止、感染拡大防止の観点から出場辞退した都市対抗一次予選、心身ともにギリギリの状態で迎えたクラブ選手権秋田県予選でした。 11年ぶりにクラブ選手権秋田県予選で優勝するまでの間に実行したこと、気を付けたこと、気持ちの支えになったことがいくつかあります。

原点回帰
初めに手を付けたのが、「能代松陵クラブ設立の意義」を再確認することでした。その名の通り能代松陵クラブは元々、能代高校OBが立ち上げたチームで、歴代監督は全て能代高校OBです。私が初の能代高校OB以外の監督になります。 チーム設立趣旨の中に「能代高校硬式野球部現役チームの強化」が謳われており、そのためにはまず、能代高校OBがスタメンにいない状況を打破しないことには、チーム自体の存続に係わると危機感を覚えました。実際、’12年のクラブカップ秋田県予選決勝戦のスタメンを見返してみると、能代高校OBはゼロです。現役部員の伝手を頼ったり、能代高校野球部の牧野現監督や伊藤前監督に選手を紹介してもらったりしながら、徐々に能代高校OBを増やし、今年のクラブ選手権初戦のスタメンは10人中8人が能代高校OBとなりました。練習場所として能代高校の施設を使用させていただいており、能代高校OBが増えると現役選手との壁も低くなって、卒業後の入部へ繋ぎやすくなり、同窓で気心知れた者同士の連帯感が生まれます。能代高校OBだと練習にも参加しやすく、参加人数が増えると、練習中から競争が生まれる「プラスの連鎖」が起き、練習の質が変わりました。

個々の意思
二つ目は「必要以上に手をかけない」ことに注意しています。チームのメンバーは、高校や大学で技術や理論をある程度身に付けた状態で入部してきます。面白いことに練習や試合を見ていると、高校や大学までにどのように教えられてきたかが分かります。仮に、私から見てそれは違うと思っても、本人はそう思っていないことが多いのです。私自身が積極的に技術や理論を教え込むのを避け、聞きに来た時に答えてあげるようにしています。決してそれぞれの考えを否定はしないようにしています。


シンプルに
三つ目は「物事を単純に考える」ことです。私はよく他の指導者に、「野球は得点しないと勝てないと思いますか?失点しなければ負けないと思いますか?」と聞きます。私が聞いた限りでは「失点しなければ負けない」と考える指導者が多いと感じています。私は「点を取らないと勝てない」と思っている派です。上位大会に行けば行くほど投手はミスピッチが減り、守備はエラーしなくなり、余計なランナーを出さなくなっていくので「打たないとランナーすら出ない」のです。0対0は勝ちではないのです。打席で選手に求めているのは「初球でもヒットできるなら打ちにいくこと」です。仮に1イニングが3球で終わっても、その3人が狙い球を打ちに行ったのであればOKとしています。中途半端が絶対ダメです。同様に、3ボール0ストライクの場面は「ホームラン打て」です。基本的に「待て」のサインは出しません。私が考える究極の打順は「打てる確率が高い順番に並べること」で、究極のチームバッティングは「全員ホームラン」だと思っています。ただ、その前提には最低限の守備があります。選手に求める守備は、投手が「アウトだ!」と思った打球を確実にアウトにすることだけです。「ヒットだ!」と思った打球をアウトにすれば投手は波に乗れますが、アウトと思った打球がアウトにならないことのダメージの方が大きいと考えています。攻撃と守備、両方とも単純に考えることで余計なプレッシャーを与えないことに注力しています。これは子供たちに野球を教える時も一緒です。

他県交流
四つ目は、県外チームとの対戦機会を増やすため、北上市長杯へ継続参加させていただきました。岩手の水沢駒形野球倶楽部、オール江刺、富士大学等の強豪との対戦機会が増え、チームに足りないものを浮き彫りにしてオフシーズンを迎え、練習の中に取り込んでいくことを10年ほど続けました。 そして近年、東北地区クラブチームのレベルが上がっていることを肌で感じ、一昨年に「秋田県クラブチーム監督会」を立ち上げました。情報交換しながら切磋琢磨していこうという過程の中で、毎年秋に開催される「東北連盟会長旗争奪大会」と「北上市長杯」の重要性が高まっていると感じました。そこで、お盆時期に開催される「魁星旗トーナメント大会」での優勝チームと準優勝チームをそれぞれ派遣することを提案し、採用されました。これにより魁星旗トーナメント大会の価値向上と、上位大会が設置されることによる相乗効果による秋田県全体のレベルアップを図ることができると思っています。


情報発信
五つ目は、Twitter(@Noshiro_Syoryo)を用いた積極的な情報発信を始めました。大会やオープン戦情報、選手個人の紹介等を積極的に配信することによりチームや選手を知っていただき、グランドで是非観戦して頂きたく、今年2月に開設しました。社会人野球は観客が少ない中での試合が多いのですが、私自身、秋田県選抜チームで茨城ゴールデンゴールズとの試合に出場したことがあり、観客が多い中でのプレーがいかにパフォーマンスを引き上げるのかを体感しています。 Twitter開設後、大会やオープン戦での観客が増えていることを実感できており、選手のヤル気も格段に向上していると感じています。


ライバル心
最後に、ライバルとしてしのぎを削っている、秋田県の全クラブチームとの関わりが一番大きいと考えています。 昨年までクラブ選手権秋田県予選を四連覇していたゴールデンリバースを筆頭に、秋田ベースボールクラブ、秋田王冠クラブ、秋田GLANZ、互大設備ダイヤモンドクラブ、大曲ベースボールクラブ、由利本荘ベースボールクラブ、全てのチームに負けたくない、その一心で頑張った11年間でした。


次のステップへ
毎年新入部員が入部し、選手層が厚くなり、チーム内での競争も生まれました。事実、今回のクラブ選手権の決勝戦のスタメンには、昨年までのクリンアップの三人はいません。 理想としているチームが少しずつ完成している手応えもあります。 来年、どのような形でクラブ選手権東北大会が開催されるかはまだ分かりませんが、今の選手たち全員と、来年入部してくるであろう新戦力を含めた総合力で勝ち上がり、’02年以来19年ぶりの全国大会出場を目指して頑張っていこうと思っています。 ご声援、よろしくお願いいたします。


~ profile ~

猿田由紀夫(さるた ゆきお)

能代松陵クラブ
監督 猿田由紀夫
■秋大附属中・秋田高校・武蔵大学
■2009年 6年ぶり5回目の優勝。
■2020年 11年ぶり6回目の優勝。