― 状況に応じた注意の仕方を ―
一昔前までは、学校の授業でもスポーツ指導でも、きつい言葉で行っても問題視されることはほとんどなかった。
しかし今は違う。
些細なことでも「パワハラ」とか「言葉の暴力」などと訴えられ非難を浴びることが少なくない。
先日も小学校の先生が、漢字テストで不合格だった児童に「大学に行けなくなる」と発言したことが問題になり、学校が児童や保護者に謝罪したという新聞報道(H30,8,18)があった。
児童を発奮させようとして発した言葉であったとしても、嫌みにとられたり、心が傷ついたりとなれば善意とはいえなくなる。
選手が危険な悪ふざけをしているような場合は、とっさに強い口調で怒ってしまう。
怒ることは悪いことと考えられがちだが、そうばかりとはいえない。
相手や自分を守るために、人間に備わっている感情(防衛感情)であるともいわれている。
しかし、それ一辺倒であることは避けなければならないだろう。
強圧的でなくても、人の心を動かせる方法がある。
誰しも経験していると思うが、人間の心はすべて理論や理屈通りには動かないものだ。
例えば「勉強しろ」と命令されれば、抵抗心を抱かず応じる人は少ないのではないか。
勉強をしなければならない理由は十分理解していても、頭ごなしに指摘されると素直になれず反発する。
それを強引に説得しようとすれば、さらに頑なになっていくことになる。
アメリカの臨床心理学者カール・ロジャーズ(1902-1987)は、そうした事態に陥らないようにするための方法として、指導者(カウンセラー)が被指導者(カウンセリー:選手)に忠告や助言を与えないカウンセリング理論を考案した。
その理論の要点は、人間にはもともと自己を建設的に処理する「自己統制力」が備わっており、その力は自己の感情が相手に受容され自由を意識した場合はポジティブ(肯定的)に、反対に、相手から押しつけや束縛を受けるとネガティブ(否定的)に心は動くというもの。
例えば、やる気がない選手に注意や忠告をしても改まらない(聞く耳をもたない)とき、「何度いえば分かるんだ。元気出せ!」ではなく、「どこか体の具合悪いんだか…」とか「何か嫌なことでもあったのか…」というように、本人に寄り添った気持ちで問いかけると、選手の態度に変化(心を開く兆し)があらわれることになろう。
次回に、カウンセリングの考え方に基づく指導法について述べてみたい。
ノースアジア大名誉教授 伊 藤 護 朗
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