― 「身なり」で気持ちが変わる ―
かつては、家庭でも学校でも″服装の乱れは心の乱れ″といって、身なりについても厳しく戒めたものだ。
破れた状態のズボンを着用したり、意識的にズボンをお尻のところまでずり下げてはいたりは、想像すらできなかったことだ。
それが今、若い人たちの間ではオシャレともいう。
″乱れ″といっていいかどうか分からないが、スポーツ界でも、気掛かりな光景が見られる。
特に感じるのは、プロ野球選手のユニホームのズボンの長さ。
裾を引きずってプレーしているのを見て、自らのスパイクで踏み付けはしないか、と心配だ。
イチロー選手にはそんなことがないのに。
そもそも、ユニホームのズボンは短めで、すねの部分はストッキングで被うものだったはず。
機能的であることより、オシャレのほうが優先されているのでしょうか。
私が野球の指導者になりたての頃、職場の上司から、選手の身なりはしっかりさせなさい、と諭されたことがある。
高い目標を目指すのであれば、ユニホームの着こなし、帽子の被り方、ベルトの締め方、スパイクやグローブの手入れなどを徹底させよ、という教えであった。
今でも思い出すのは、2010年2月のバンクーバー冬季五輪のこと。
フィギュアスケートに出場した織田信成選手が、フリーの競技中、右足の靴ひも(継ぎ足しの)が切れて演技を中断。
これが響いて悔いの残る7位の成績で終わった。
その様子をテレビで見ていたが、期待が大きかっただけにショックを受けると同時に、前述の上司の言葉の重みを痛感した。
服装はただ着るというのではなく、意欲や自信、さらには集中力を高めるなど、精神面にも大きな影響を及ばす。
指導者は技術を向上させることだけにとらわれず、選手の身なりにも目をむける必要があると思う。
ノースアジア大名誉教授 伊 藤 護 朗
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