小学2年時、兄の影響で野球を始めた。新山小４年時からスポ少に入団し、最上級生となった６年生の時は、意外にも外野を守っていた。チームといえば弱小チーム。大半の試合は初戦敗退だった、と当時を振り返る。 本荘北中へ入学しても、迷わず野球部に入部した。しかしながら、この時点でまだ「投手・仁部」は存在していない。本格的に投手として練習を始めたのは２年秋から。チーム事情から左投手を育てたいことと、身体能力が高く器用だったことから、外野手から投手への挑戦が始まった。

当時、本荘北中は松ヶ崎小、新山小、北内越小の児童が集まっていた。その中でも、松ヶ崎小が地区の中でも強豪といわれ、彼らの活躍もあって本荘北中は地区では「向かうところ敵なし」。仁部も３年春には本荘由利地区で優勝、夏の地区予選も制して、全県の出場権を得た。が、県大会初戦で比内中に１－２で惜敗。仁部の夏は終わった。 高校進学にあたって、数校から誘いがあったが、体が小さかったこと、当時の本荘高が強かったこと、加えて兄の影響もあって迷わず本荘高へ舵を取った。

入学後、１年からベンチ入りを果たしたとはいえ、ひじ痛に悩まされマウンドへ上る機会はなかった。そのひじ痛も２年春ころから徐々に回復。経法大附（現・明桜）との練習試合で投手としてやっていける足掛かりをつかんだ。そして３年春、中央地区から背中には「背番号１」が輝いた。しかし、結果がついてこない。高校球児にとっての夢舞台「甲子園」の出場は、初戦敗退でついえた。 当時、同期にはヤクルト・石川雅規（秋田商）、阪神・藤田太陽（新屋）、メジャーにチャレンジした後松重栄（大曲工）らの好投手が目白押し。彼らを「雲の上の存在」と感じていた。 石川投手率いる秋田商が甲子園で活躍する姿をテレビで観戦。全国のレベルの高さを感じるとともに、寂しい夏を過ごした思い出が残っている。

大学進学は当初、日大を希望していたがセレクションに合格することがかなわなかった。結局、東北学院大へ進学した。通算１９勝９敗。小さな体で強敵・東北福祉大を相手に孤軍奮闘したこともあった。 大学４年時、野球部を持つ社会人チーム数社からの誘いもあったが、地元・TDKを選択した。小学から始めた野球。中学、高校、大学、そしてアマチュア野球ではレベルの最高峰・社会人野球へと順風満帆な選手生活を歩んできた。しかしながら、徐々にレベルが上がるにつれ、マウンド上では「ストライクゾーンが狭くなっていく」という奇妙な感覚に襲われた。
打者についても強打者がそろう東北福祉大との対戦で本塁打だけは打たれまいと強く意識して打者と対峙した。しかし、TDKに入社してからは金属バットから木製バットへの変換期だったこともあり、それを強く意識することはなかったという。

２年間在籍したTDKでは、１年目はJTの補強選手として都市対抗に出場。２年目はTDKで都市対抗と日本選手権に出場した。そして２００３年の日本選手権大会期間中のドラフト会議で広島から５位の指名を受けた。

「契約金、年俸はマスコミ発表通り。なんで金額が漏れたのか、今でも不明」（笑）。プロに入ってからは、スピード感、体の強さ、「すべてにおいてショックを受けた」という。 特にブルペンでは黒田博樹のボールの威力に唖然（あぜん）。打撃投手として投げた新井貴浩にはフェンスオーバーを連発され、力の差を痛感した。そしてプロとして生き残りをかけてサイドスローにフォーム改造した。

４年目の秋だった。球団からの突然の通達。「来季の契約を打ち切る」。心の準備はあったとはいえ、ショックだった。「これまで生きてきた中で、最大の挫折感を味わった」。球団からは打撃投手への誘いもあったが、若いうちに地元へ帰る道を選んだ。 「プロ野球では、１軍でも２軍でも上手くなりたい、という意識は皆同じ。自分もその気持ちは持ち続けた。もちろん最大の努力もしてきた。だから、自分の歩んできた道に悔いはない」。

今までの野球経験から学んだことは「挨拶が自然にできる」「基本の大事さ」「基本と準備の重要性」に加え、人とのつながりや互いを理解しあえることの重要性も魅力のひとつという。 子供たちには、「最初は打った、捕ったで楽しんでもらいたい。さらには自分にとって何が得意なのか、何が不得手なのかをしってほしい。そこから次に何をするのかを考えてほしい」とアドバイスを送る。

最後に野球とは、の質問には「なくてはならないもの」と語ってくれた。

編集後記
小さな体でプロまで上り詰めた技量は一級品。思想もビジョンも明確でインタビュー中の返答は、迷いもなく明確に対応してくれた。甲子園を目指す高校球児にも聞かせたいお話も数多くあった。県内の球児のレベルアップのためにも、還元してほしいものだ。今後、一流の指導者として球界に戻る日を待ちわびたい。

≪文・写真：ボールパーク秋田編集部≫

～ profile ～

仁部　智（にべ　さとし）氏 昭和55年生まれ 秋田県由利本荘市出身 広島東洋カープ（２００３年・ドラフト５位）