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2男1女を授かった。長男は本荘高野球部、次男は本荘・由利リトルシニア、長女は平沢小・スポ少で主軸を任されている。

自身、小・中・高校、そして社会人とバレーボールを経験。そのすべてのカテゴリーで全国大会に出場している。「3人のうち、1人くらいはバレーボールをやってほしい」と今でも願っているものの、熊谷家の教育方針は「好きなことは存分に、とことんやらせる」ことだけに、その願いは届きそうもない。したがって、子供たちが野球をするにあたって、家族内では応援もするし、協力も惜しまない。最後まで付き合うことが「家族のルール」でもある。例えば打撃練習では、7メートルほどの距離から硬式のボールを投げて練習に付き合う。長男、次男に200球ずつ。そして長女にも…。時には600球を超えることもある。それでも、バレーボールで鍛えた肩は健在だ、というから驚きだ。

子供たちが野球を始める端緒となったのは夫・豪さん(秋田商高で甲子園出場。TDKでは外野手として全国制覇に貢献)の試合を観戦したことから。その後、「自分たちもやりたい」と言うようになり長男、次男が始めた。みどりさんにとって「まさか長女まで」とは思いも及ばなかったことだろう。  今でも、せめて長女だけはバレーボールを、と思っているものの「スポ少で主軸を打っているので、難しいですね…」と、諦め顔。

自身、団体競技を経験してきたことから、個人の成績よりも、チームの勝利が求められるのはいうまでもない。その中で、自分の子供たちが活躍をすれば、その勝利の喜びも倍増する。けがの心配は付きまとうが、自身「倒れても大丈夫」という環境で鍛えられてきたことから、滅多なことでは学校を休ませることはない。

こんな逸話もある。昨年、長男が全国大会の1週間前に手の指を骨折。そのときは病院の先生に「1週間で治してください」と懇願したものの、一方で長男には「(指が)あと9本残っているから大丈夫」と言い聞かせたという。さらに家の中では「痛い」という3文字は厳禁。体温計やばんそうこうも置かないようにしている、というから徹底している。
「現代版の『星 一徹』ですね」(笑)。「私の前では痛いとか言えないので、子供部屋には湿布や塗り薬がたくさん隠されているはず」

それでも、母親として一番気がかりなのが、学業だ。勉強だけは教えることができないのが、その理由。3人の子供がいると平等に世話をすることができないことも悩みの一つ。

シーズンが始まると、試合が重なり会場の移動や、夫婦で分担しての応援など、体一つでは足りないのが現状だ。一番かわいそうなのが長女だという。「本当はもっと応援に行ってあげたいのだが、なかなか行くことができなくて…」(涙)。

子供3人の洗濯の量は推して知るべし。が、みどりさんにとっては「汚れていればいるほど、うれしくなる」という。「それほど一生懸命に練習した証しなのだから」と平然と語る。育ち盛り、食べ盛りの子供たちの食事に関しては、「寮母さんに憧れていたこともあり、家によその子供たちを呼んで合宿をやるんですよ」と言うほど、食事を作ることは苦にならない、という。ある日の試合当日。 午前2時半に起床。そこから3人分の弁当を作る。ちなみに、お米の量は朝8合、夕6合。子供の同級生の母親からは「洗濯や食事を作るのが大変」と相談されることがある。そんな時「甲子園の歌でも歌いながらやれば、すぐ終わるよ」といって励ましているからポジティブである。「本当はもっともっと、野球を教えてあげたいのだが、無理な話。その分、洗濯や食事くらいは一生懸命やってあげたい」というコメントからは、母親としての愛情が伝わってくる。

思い出の試合は? という問いには「主人が黒獅子旗を取った全国優勝と言いたいところですが、全然勝つことができなかった息子たちが、最後の大会で勝ち進んで、北海道で開催した第6回東日本大会で3位になったことですね。札幌の円山球場は思い出に残ります」と笑いながら話してくれた。バレーボールをしていたころ。インターハイや春高バレーには何回も出場しているが、「一度も緊張したことはない」という。が、子供たちの試合観戦では「ハラハラ、ドキドキの連続で、手に汗を流して応援をしています」
「主人のTDKの試合では、寝ていることもあったんですが…」(笑)

仕事での残業、家事、洗濯、PTAなど連日の超ハードな生活を送っている。睡眠時間は3~4時間程度。それでも「全部が楽しい」と言い切る。頑張れば試合を見ることができるし、いろんな仕事をこなすためには削れる部分は何か、と考えると睡眠時間を削ることが手っ取り早いという。買い物の時間も分刻み。「急ぎすぎて買ったものを忘れてきたこともありました」(笑)。

「世の中にはもっと大変なお母さんがいるはず。私は野球の応援をするために頑張ることができるので、野球がなくなったら『ぼける』かも」と最近、思うこともあるという。子供たちの日常の姿を垣間見て、楽しいことがある。それは野球をしていることで、挨拶(あいさつ)や躾(しつけ)など日々、成長する姿をリアルタイムで感じ取れることだ。

「だれかがバレーボールをやってほしい」という夢は諦めていないが、今はとことん好きな野球に取り組んでほしい、と思っている。

「私たちは秋田で育ててもらったので、子供たちも将来、秋田に残って、秋田に恩返しをしてほしい」  野球と出合ったことで、考え方にも変化が表れた。「子供たちが挨拶をしっかりしていれば、親たちもそれに応えてしっかりと返さなければならない。子供たちに『声出して~』って言うんだったら、自分も負けないくらい大きな声を出して応援しようと考えている。何でも子供任せにしないで、自分が変わらないと」という。バレーボールに夢中になっていたころは、勝つことばかりに執着していたが、今ではサポートする立場で多くのことを学び、経験させてもらっている。「たくさんの人々に野球を通じて出会い、一緒に過ごした時間を私の『宝物』にしていきたいと思っています。子供たちに負けないくらい、自分磨きに精進したい。私にとって野球は自分を磨いてくれるものです」



≪文・写真:ボールパーク秋田編集部≫

~ profile ~

熊谷 みどり(くまがい みどり)さん
秋田県にかほ市出身
平沢小―仁賀保中―由利高―TDK
小・中・高・TDKで全国大会(バレーボール)に出場