アナウンスを始めたきっかけは、職場の上司だった県軟式野球連盟の関係者に誘われたことでした。それまでの私は、小学生のころ、ソフトボール部に入っていた程度で、まったく野球とは無縁でした。ただ、父や弟が野球をやっていた影響で、試合を見る機会も多く、また、個人的にも高校野球が好きで、よく見に行っていました。それをたまたま耳にした上司から「そんなに野球が好きならやってみないか?」と声をかけていただいた、というわけです。そのとき瞬間的に「やってみたい」と思った私は、二つ返事でお受けし、仙台で開催されていたアナウンス講習会に参加させていただくことになりました。それが平成25年のことでした。
最初のころは特に、頭で状況を理解していても言葉が出てこないという場面が多く、苦労しました。ずっと野球が好きでたくさんの試合を見てきましたが、観客の目線で見るのとアナウンスする側の目線で見るのは全く違っていました。守備位置と打順で混同したり、先攻と後攻のチームを逆に紹介してしまったり、本当にたくさんの失敗を経験しました。途中で間違いに気づいてしまうと、どう言い直していいかわからず固まってしまうんですよね。そのときはとても時間が長く感じました。
そんなに失敗ばかりだったら相当怒られたでしょう? と聞かれることが多いのですが、実はそんなことはなくて、逆に励まされていました。「初めてなんだから間違って当然だよ」とか、「初めてなのにこのくらいできたら上等だよ」とか、その言葉に救われました。それがなかったら辞めていたかもしれません。そんな周囲の支えに助けられながら、平成25年から26年の2年間では20試合、平成27年は約30試合、平成28年は50試合ほど、アナウンスを担当しています。まだ毎試合緊張はしますが、それよりも楽しみの方が強いです。
仙台でのアナウンス講習に参加したとき、「アナウンスは名脇役であれ」「天気が悪い日こそ元気に」と教えられました。その時はピンとこなくて、なんとなく覚えている程度でした。後日、それが重要なことだったと気がつくような出来事がありました。 それは、全日本学童軟式野球県大会でのことでした。突然、自分の声がいつもより暗いことに気がつきました。と同時に、その試合もその日の天気同様、どんよりとした雰囲気になっていることにがく然としました。天気によって声のトーンが違うということを、このときはじめて実感しました。
アナウンスの役割は、ただ名前を読み上げたりするだけではなくて、声で試合の雰囲気をつくることだというのも、その時ようやくわかりました。これが「名脇役」ということなんだな、と思いました。このことは今でも印象に残っています。
野球連盟に所属してから、たくさんの野球好きな方と知り合いました。その方たちは、ただ野球が好きなだけじゃなく、それぞれが熱い思いを持っていることに気がつきました。私も相当な野球好きだと自負していましたが、その方たちに比べたらまだまだ浅いなと思いました(笑)。おかげで野球の見方も変わりました。以前は高校野球が好きで、観戦するのはほぼ高校野球だけでしたが、今は子どもから年配の方の野球まで興味が広がりました。それぞれの年代で違った楽しみがあるというのも、野球というスポーツの魅力だと思います。
そしてもう1つ、私が思う野球の魅力は、野球を通じて、世代ごとにも世代を超えてもつながって楽しめることだと思います。
アナウンスを担当していて良かったと思うことは2つあって、まずは間近で試合を見ることができることでしょうか。アナウンス室からは、選手の表情もよく見えるし、ベンチの声も聞こえます。もう1つは、野球を通じていろいろな方と出会えることです。その中には、普通にしていたら知り合えないような偉い方もいますが、そういう方も気さくに声をかけてくださいます。それは本当に励みになるし、いつも感謝しています。感謝といえば、野球連盟の方々をはじめ、いつもアドバイスをくださるアナウンスの先輩、試合中も気遣ってくださる審判の方、本当にたくさんの方々の顔が思い浮かびます。
今後の目標は、まずは自分のレベルアップです。主役は選手なので、脇役として試合を盛り上げられるようになるのが当面の目標です。間違えたり、話し方に癖があったりすると目立ってしまうので、その点を気をつけたいと思います。耳には入るけれど目立たず、それでいて試合の雰囲気をつくれるようなアナウンスを心掛けたいです。それから、天皇杯や高松宮杯、国体等、全国大会でのアナウンスに挑戦してみたい、という大きな目標も密かに持っています。そういうチャンスを待ちたいと思っています。
最後に、私にとって野球は、元気の源です。アナウンスの予定が入ると、何日も前から楽しみで、ウキウキします。試合では、選手の一生懸命な姿や楽しそうに野球をしている姿を見ると元気が出ます。
今回、取材を受けるにあたって、私のように、野球経験はもちろん、マネジャーなどの経験がなくても、今、こんなふうに野球に携わることができるということを知ってほしいと思いました。野球経験がなくても、野球が好きで、アナウンスや記録に携わりたいと思っている方がいたら、ぜひ挑戦してほしいと思います。野球連盟は本当にいい組織だし、人とのつながりもできます。みんなで秋田の野球をもっともっと盛り上げられたらと思います。
≪文・写真:ボールパーク秋田編集部≫
~ profile ~
鎌田 亜矢子(かまだ あやこ)さん 秋田県能代市出身 秋田県軟式野球連盟所属 |